KIM MYUNG-MIN  ++VAZZAR2月号++


シリアスな男

キム・ミョンミンは俳優が芸術家だと信じている。
身体と感性を容赦なく活用し心蔵と皮膚を持った完璧な人を創造することだと考える。
毎作品ごとに彼をありのままに証明してみせて、こなごなに壊すとてつもない
俳優キム・ミョンミンが聞いた。「違いますか?」

エディター/ユン・ヘジョン
Photographed by Lee Gunho




<朝鮮名探偵:トリカブトの秘密>でキム・ミョンミンは仲良しのオ・ダルスとともに走ったり転んだりする。
予告編後半、監獄に閉じ込められたケジャンス ソピル(オ・ダルス役)が犬のポーズで土を掘り名探偵(キム・ミョンミン役)が無駄なことはやめろと嘲笑う場面がある。“ワン公も顔負けだな” 笑いがはじけた。どんなに悪辣な言葉でも許されるような     
重厚な声。腹式呼吸で確かな発音。オ・ダルス式コメディとの調和と、キム・ミョンミンという俳優に対する先入観が加わって意外に一番面白い瞬間だ。映画<朝鮮名探偵>に対する期待は“とてつもない俳優”キム・ミョンミンが何を見せてくれるかという期待と同じだ。折しも、現場では彼が名探偵に憑依したという噂も。“奴婢を救おうとして”肋骨にひびの入る負傷をしたという話も聞いた。キム・ミョンミン本人には申し訳ないがおかげで映画に対する好感度は勢いよく上昇している。

俳優キム・ミョンミンが次回作としておとぼけ天才の名探偵が出る映画を選択したと言った時、これは自分のイメージをコントロールできる俳優の意図的な選択だと考えた。ちょっと笑える映画、愉快なキャラクターをする時期がきたという式の。“それは今、私のイメージに必要で決めたというだけではないです。私は何か創造したいんです。毎日キムチチャーハンだけ作るコック長がカレーライスも作ってみたいと思うのは当然じゃないですか。そうしてこそ他の料理を作るチャンスを得るんでしょう。” 
キム・ミョンミンはこのように例えることに長けている。“キャラクターだけ見て映画を選ぶわけではありませんが。でも私がやることですので。  3〜4カ月共にしなければならない人なので。他の人が何と言っても私が一緒に生きる人。私の恋人を私が選ばずに誰が選ぶんですか?”

<朝鮮名探偵>はロマンティック シットコム(オールドミスダイアリー)で株を上げたキム・ソギュン監督のスクリーンデビュー作だ。監督と俳優の最初の挨拶の時、彼らはいったいどんな会話をしたのか気になった。 “キム・ミョンミンのフィルモグラフィーに誰もできない映画を加えたい。そうおっしゃったかな?ともかく自信があっておっしゃったようです。何かたくさん書いて来られたんですよ。最初は私の目の代わりにノートを見てお話されてました(笑)”

監督を緊張させる俳優キム・ミョンミンはしかし、現場では何倍も緊張する。フィクションのキャラクターを実際存在する人であるように対する彼はいつも自分の本心にきちんと礼儀を尽くそうと頭の中が一杯なだけだ。“キャラクターを完璧な人として作るのは本当に面白いです。どんなディテイルに変化を与えるか?現場でも、家にいても労心焦思(心を痛め気を揉む)ただそれだけですよ。
”名探偵の顔がどアップに出たポスターに一番目が行ったのは英国の伯爵から出てきたような鼻ひげだ。“最初は皆反対だったんです。でも私はシナリオを読んだ時からこのような名探偵の顔や表情が浮かんできたんですよ。このようなひげは話にならないと反対して心配しましたが、鼻ひげだけはぜったいやらねばならないと言い張りました。私が作ったキャラクター。私がちょっと変わって演技するためのディテイルだし。それは俳優の権利じゃないですか。勝ちたいと思ったことは絶対譲らないです。”名探偵の鼻ひげは気分の良い日はちょっと先が上がるし、そうではない日には若干下がる。この映画の笑いコードはずうずうしくて愛らしい名探偵とまじめな俳優キム・ミョンミンの不調和から始まるのだろう。しかしこだわりと自意識はここまでだ。

彼は演技以外にはそれほど気を使わない人のように見える。たとえばこのシナリオが自分の手に来る前誰かを通った、という問題のようなこと。彼は自尊心と直結して微妙な神経戦を引き起こす、この質問にやっきになる代わりに結局自分が最高の選択であったことを自ら示すことに注力する。

“私自信を、分際を、身の程を知ることが重要です。他人が見るとCなのに、本人はAだと思ったら気分が悪いことだらけですよ。でも自分をAだと見てくれても自らBだと思ったら良いことが起こります。どうしてこんな風に優しいんだろう?仕事が楽しくなるんですよ。すごくありがたいし。”何日か前に偶然会った<朝鮮名探偵>のスチール写真家は、キム・ミョンミンが数十名のスタッフの名前を覚えていつも名前で呼んで挨拶を交わすという話をしてくれた。当然だと思うかもしれないが、すごく寒かったり、暑かったり、すごく眠かったり、疲れていたり、すごく変動の多い日があるきつい撮影現場にいると思ったら、その考えも変わるだろう。

キム・ミョンミンは学習して進化する俳優だ。多くを見て、多くを読み、多く聞かなければならないという確固とした持論を持っていて厳しく自分を管理する。“私は心理学が好きです。<エニアグラム>は人の類型を9つに分けて分析した本なんですが、この本を読むと私が表現しなければならない人を再度調合し直したりもしました。セリフとセリフの間に隠れた行間の意味を表現する時役立つでしょう。
”本もシナリオのように同じ場所で一気に読んでこそ満足するという彼はある時1年に本を100冊読む運動のようなことをしたこともあった。“ものすごく辛い時だったんですよ。<鳥肌>でやっと好評を得た直後、映画3編が容赦なくだめになって、3年休んで移民を考えた時です。ですが今考えるとキム・ミョンミンという俳優が観客の前に立つ以前、新鮮だったりもしました。腐った野菜なのか、有機農なのか、埋もれていて分からない時。”そしてすべてを諦めて飛行機のチケットを手に握りしめた時奇跡のような<不滅の李舜臣>に出会い、それ以降はあなたが知っているキム・ミョンミンになった。

チャン・ジュンヒョク、カンマエ、ルーゲリック病に侵されたペク・ジョンウ、娘を失った後破壊されていくジュ・ヨンスとしてのキム・ミョンミン。面白くてもキム・ミョンミンはある時ドラマ好手の内功を競い合う最高位に浮かびあがったりもした。<白い巨塔>を通してドラマでもメソッド演技が可能だということを見せてくれた以降。完璧な手術の実力もそうだったが、何よりも““どうやって”という思いを捨て、条件なく、無条件にやってこそだ。休まず、逃さず、最後までついていく、そうすれば自分のものにできる“と、注ぎ込んだチャン・ジュンヒョクに自分の姿を発見した大衆は彼を憎むどころか憐れんだ。そしてファンたちはこのような「ファン活動」に没頭した。
「あんたはいつからウリ オッパのファンなの?」
「<お熱いのがお好き>(2000)?笑わせないでよ。あたしは<父と息子>(1999)の時からファンやってんのよ。」
「そう?<カイスト>で捨てられた科学者の息子で気難しいカイストの学生としてちょっと出演したウリ オッパを覚えてるの?」
もちろん覚えようとすれば十分覚えられる。端役演技者の時代。毎日放送局に出勤する時も多作はしなかったのだから。

“2000年ごろですか、ある記者から聞かれました。結婚もしたのに、あれこれ仕事しないとやっていけないでしょう?でも演技しようと決心した以上、通帳の残高がいくらで、赤ん坊のミルク代をどうするかとか・・・このようなことはまったく聞こえなかったし、見えませんでした。<お熱いのがお好き>でMBCから新人賞をもらった後、<太陽はいっぱい><ガラスの靴>などその時ほどたくさんシナリオをもらったことはありません。それを全部蹴って選択したのが<鳥肌>でした。おしゃれをして、ステーキを食べながら生きたかったら人生も変わっていたでしょう。結局はそれがかっこいいとは思わなかったんですよ。その分野で最高になればお金と名誉は付いてくると考えました。まあ、その時になってついてこなかったら(演技を)やめるし。”彼が俳優として生きるためにいつも深い激流の河で背水の陣の思いでカメラの前に立っていたと思ってきた私としてはかなり信じがたい言葉だ。

“風波を経験して生きる態度が真剣になった”が、最初の演技を始める時と今、彼が演技する理由は変わっていない。他の人の人生を生きたいということだ。子供の頃のキム・ミョンミンは人の前に立つことが好きだった。学級委員を一手に引き受けた彼はクラスで一番面白いやつを笑わすことができる唯一の子供だった。“遠足の日はそれぞれのクラスを回って踊りを踊ってキムパ、お菓子をもらってきました。他人の前に立って人が熱狂すると嬉しかったんですよ。高校の時ようやくこの役、あの役をするのが面白いということを知りました。その時猫の役をして、家の前の猫を1週間観察しながら床を這うようにした記憶があります。まあ、やらなかった役はないです。強姦犯から殺人犯、どろぼう、米屋のおじさん、ビデオ屋の主人、大学生、弁護士・・・(笑)”しかしキム・ミョンミンが本当に俳優になったのは彼の口からこのような言葉が出た時からだ。「私は自分のために演技しません。」<不滅の李舜臣>でKBS演技大賞を受賞したキム・ミョンミンはやっとの思いで頂上の椅子に上がった感激をこのように表現した。自分が演技した李舜臣という虚構のキャラクターに感動を受けて熱狂したすべての人たちのためへの感謝の言葉でもあった。

“一番聞いて嬉しい誉め言葉ですか?単純ですよ。‘お、これは本当に君じゃないみたいだ’モニターしてくれる方々がいらっしゃるんですよ。私は今もその方々の話しか聞きません。血も涙もない冷徹な評価ですが、いつも正しいです。”私はその秘密任務を遂行する人たちが誰なのか聞いた。“各界各層にいらっしゃいます。平凡な会社員もいるし、付き合って何十年になる知人たちです。以前<私の愛、私のそばに>の時に撮った<MBCスペシャル>でインタビューを試みて失敗しました。皆さん厭だとおっしゃって(笑)”

この日インタビューが全部終わった後、キム・ミョンミンは遅い昼食も抜いて引き続きインタビューを行った。2月初日本で公開する<私の愛、私のそばに>の配給会社から動画インタビューをお願いされたためだ・“次世代韓流スターになるんですか?”という冗談も言ったが、間違った言葉ではない。今<ベートーベン・ウィルス>も日本の地上波で放映中だから。キム・ミョンミンはどのように編集されるかあらかじめわかるようなコメントを数十回繰り返して、とても誠実なインタビューを行った。私は昔の恋人との再会の日を前にしてときめく男性のような彼を1時間ほどの間見守った。

実際<私の愛、私のそばに>はロマンスよりもキム・ミョンミンの身体がさらに悲しい映画だった。“映画が終わってしまったら私はどうすればいいのか目の前が真っ暗でした。”と言った彼の苦痛は想像以上だったことだろう。しかしある瞬間からか、やせ細った身体をなめるように撮ったカメラのように俳優自身もこの状況を楽しんでいるように見えた。“倒れるくらい痩せることが映画の本質であるためにためらいませんでした。ですが今も監督にお会いすれば話しますよ。このような映画を企画して制作するのが問題なんですと。(笑)”万が一自分が時限付きの人生を宣告されたら死んでいく役を引き受けてリアルな演技をしたいという、万が一俳優としてその‘絶好のチャンス’を利用できなかったら残念だというとてつもなく強い男。

“後輩たちが私を見て希望と勇気を持ってくれて、演技に目覚めるような気持ちを持ってくれたらありがたいです。たまに怠けたくなりそうな時精神をきりっと整えることができるそんな存在のことですね。”私たちがキム・ミョンミンを‘演技がうまい俳優’と呼ぶのは彼の熾烈さとひたむきさに圧倒されたからだ。400個に及ぶ顔の筋肉さえも意味なく放っておかない彼に向かって、大衆は変わりない支持を送る。それは愛というより信頼に近い。私を裏切らないであろう俳優。しかし彼は今も喉が渇いている。“以前は柿の木の下で口を開けていなければならない立場だったとしたら今は柿を取るために登って選べるようになったでしょう。望む柿はまだ取れないですが・・・、なぜかですって?まだしなければならない作品と配役がたくさん残っているからです。”願わくば、彼の渇きが解消される日が永遠に来ないことを。そうしてこそ、この熾烈な俳優をもっと長く見ることができるのだから。さらに私たちはキム・ミョンミンが与える快感の中毒性をすでに知ってしまったから。




※(備考)<エニアグラム>

性格の主な九分類法
リソによる分類法:
1.批評家:職人。完全主義者。鑑識力が高い。神経質。融通が利かない。
2.援助者:人助け。細かい気遣い。八方美人。人を操作したがる。
3.遂行者:成功。計画実行。行動的。人を駒のように扱う。
4.芸術家:天才。孤高の志士。一番病。ナルシスト。
5.観察者:博士。分析屋。内向的。皮肉屋。有益性を重んじる。
6.忠実家:安全第一。石橋を叩いて壊す。新しい物事への拒絶。
7.情熱家:楽天家。好奇心旺盛。自由人。飽きっぽい。
8.挑戦者:唯我独尊。理想主義者。自信家。他人に操られるのを嫌う。
9.調停者:平和主義者。器用な経営者。葛藤を嫌う。逃避。怠慢。


VAZZAR 2月号(2011)

翻訳:SAMTAさん〜感謝〜☆

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