KIM MYEONG-MIN   ++VOGUE7月号 スターインタビュー++

創られた男    vogue

新しい映画<破壊された男>でキム・ミョンミンは傷だらけなままでもスタミナがあふれ、
息が詰まるような激しい表情演技を見せてくれる。
そして熱いキム・ミョンミンの隣で冷たいオム・ギジュンがスリラーの鋭敏な温度を合わせている。




キム・ミョンミンは毎回自らを破壊し、新たに創りだした。

彼は、人々が自分を「演技本座」と言うことを嫌がり、自分を“セレブリティ”だと言えば、怒りだすかもしれない。(彼はファッションショー会場やTVのバラエティショーのスタジオに近づいたことがない。(出演したことがないの意味)キム・ミョンミンは自分を“仕事をする俳優”だと思っている。破壊されて苦痛の地獄と創造の快楽を果てしなく繰り返す“仕事をする俳優”。
キム・ミョンミンが歩いて入ってきた。約束の時間57分前だった。ワールドカップシーズンにふさわしい赤いTシャツを着た健康な姿だった。
私たちは毎回こんな感じで“サプライズ”のように会った。彼がドラマ<白い巨塔>のセット場でかっこいい黒のスーツを着て天才医師を演じた時はスタジオ内の食堂で同じ食事をとりながら、おしゃべりをして(<不滅の李舜臣>を撮影した時は飢えて部下達が海の上のパンに見えた)ワインバーで彼が梨泰院(イテウォン)のスキーウェアショップでアルバイトの販売員として仕事をした時の話も聞いた。(お客さんは親切なミョンミンさんに押し寄せたためにひと月で彼の給料は正社員の倍を超えた。)手術中の覚醒を素材とした<リターン>という映画を撮影した後には清潭洞(チョンダムドン)の地下ギャラリーでこっそり手術台を設置して興味深い医療パフォーマンスを繰り広げたこともあった。(おなかにチェリーをのせた女性モデルと一緒に。)
キム・ミョンミンはいつも自信とエネルギーにあふれ、意思表示が明瞭だったし、ユーモラスだった。

昨年の夏、52kgの骸骨のような身体で現われた時だけは除いて。彼は自分が死んでこそ映画が終わるというメソッド演技の精神的理論を時間の流れに従って身体で実験し、その結果、彼の肉体を深刻に破壊させた。ルーゲリック患者になった彼の臓器機能が止まる直前、映画の撮影が終わり、キム・ミョンミンは情緒的にも深刻な荒れた状態を経験した。(彼はこの映画で2009年青龍映画祭でソン・ガンホ、キム・ユシク、チャン・ドンゴン、ハ・ジョンウを制し、主演男優賞を受賞した。)
これは愛が深まれば深まるほど舌と身体は固くなる“映画”のようなドキュメンタリーであり、同時に一人の俳優が映画のためにどうやって自分を犠牲にするのか(話すことも、身体を動かすこともできないところまで)を見せてくれた生々しい本物のドラマだった。当時私は目を閉じて白い棺の中に入ったキム・ミョンミンを撮影し、“死んでこそ生きる男”というコピーをぶらさげた。彼の首はすごく細かった。私は大きなスクリーンで彼を見ながら涙を流した。



“今は何キロくらいですか?”“66kgです。ちょうどいい体重ですよ。”彼は午前にOralBの歯ブラシ広告撮影を終えて、すがすがしい笑みを見せた。“良かったです!14kg太られたんですね!”担当医師のように私が言った。今までキム・ミョンミンは主に健康と生命と公益分野に関連した信頼度の高い広告モデルとして活躍した。“損害保険と国際電話、車両安全と健康食品のようなものでしょ”と彼が冗談っぽく言った。
“広告主も私の健康を心配されました。<私の愛 私のそばに>を終えて撮った広告が最近まで流れたんですよ。”TV広告の中でキム・ミョンミンは若干病弱に見え、気の毒に見えた。ある健康食品会社は“紅参(ホンサム)とともにキム・ミョンミンが回復した。”というコンセプトで広告を流したりもした。“すべてが私の回復にフォーカスが当たっていたということでしょう。そして私は今完全に回復しました”と彼がポパイのように筋肉を自慢して見せた。

過ぎたことだが、これは映画俳優たちに論争を引き起こした。俳優がそんなに酷使されても良いのか、過度な俳優の精神が大衆に尊敬を超えて恐怖を与えるのではないか、等々。
“知っています。同じ俳優同士でも俳優も人間なのにあまりにもやりすぎではないか。そう言いました。ですがそれは個人の価値観の問題です。なぜ俳優をやるのですか?成功するため?有名になるため?私は自分の満足のためにします。私は自分との戦いに勝たなければなりません。その成就感とやりがいが私のパワーの源です。ルーゲリック病役もそのような病気の映画を作ろうとした制作会社が問題であり、その役柄を命を掛けてやりとげた俳優の問題ではありません。目の前に置かれた課題をやりとげることが純粋な私の仕事です。それを越えられなければ次の私はいないのですから。”
キム・ミョンミンは確信に満ちて語った。それは彼の名誉に関する話だった。彼は最善を尽くし、それで終わった。
“どんな映画でもこの(自分との)戦いで勝ちぬいてこそ次の戦いで勝つのです。”そうだ。戦いが終われば次の戦いが待っている!

今回の戦いは娘を奪った誘拐犯との戦いだ。<破壊された男>のティーザーポスターがインターネットで上がった日から、私は安堵のため息をついた。新しい映画の中で彼は傷だらけなままでもスタミナがあふれて見えたし、細胞の一つ一つまで感情で高揚し、裂けるような表情演技を見せてくれた。一言で彼は丁度いいぐらいに回復した。私は彼に、いつももっと強い刺激を求めるのではないかと聞いた。まるで毎年新しい記録が更新されるのを望むオリンピック選手のように自らがさらに高い演技的目標を立てて棒高跳びをするのではないか。“いいえ。私はマゾヒストではありません。変態でもないですし。”

しかし昨日まで彼が創造した人物たちを思い浮かべてごらんなさい!神々しい戦争の英雄、死んでいく天才医師、暴言を乱発する変わった指揮者、愛に墜ちるルーゲリック患者・・・
彼が創りだした人物のスケールはすごく巨大で重々しいし、その運命はすごく美しく哀れでまるで苦痛と救いを扱った文学作品を見ているようだ。いつだったか、自分の体を破壊した後再び再生するキム・ミョンミンの演技過程がTVドキュメンタリーで放映されたことがあったのだが、そのタイトルも<その人はそこにいなかった
*キム・ミョンミンはそこにいなかった*>だった。いずれにせよ彼の演技は見る人々にも高度の集中と畏敬の念を求める。



“創造作業はいつも苦痛です。一人の人間としてやり遂げるのが大変です。すごく手に余ります。”“その創造のレールの上から降りたいと思わないんですか?”と私がそっと聞いてみた。
“いいえ。その創造の作業が私を生かしてくれるんです。それは一番最初のときめきを与えてくれます。シナリオが近づいてくる瞬間をご存じでしょ?”彼が虚空に向かって暖かい笑みを見せた。“まるで、小学校の時、目を閉じながら隣の席に座る友達を待っている感じです。”
特に今回の映画はさらにときめいた。毎瞬間が身体が回復されるのを待っている時間だった。アメリカでひと月の保養を終えた後、登山を並行しながらついに体重が60kgを超えた時、皆が待っていた<破壊された男>のクランクインとなった。

初撮影はトンドゥチョン(京畿道)の警察署で娘が死んだと言う話を聞いて血の付いた服を見つめるシーンだった。揺れるまなざしで娘の服を見つめる映画の中の<チュ牧師>を想像しながら、私はウィリアム・ポール・ヤングの小説「神の小屋」を思い浮かべた。誘拐された末娘のために大きな悲しみに沈んだまま、神に裏切られた主人公が4年の歳月が過ぎてその誘拐現場である小屋で神のお告げを授かるというベストセラー。
“<神の小屋>をお読みになったんですか?”
“いいえ。この映画は神は関係ないんです。ただ誘拐それ自体に対する話です。牧師にもかかわらず、神より娘をもっと愛した男の堕落に関する映画です。一人の人間が娘を探すために走るということです。”キム・ミョンミンは宗教と映画の問題を分離したいと言った。

そうであれば、今の時代に神に試された父性愛は果たしてどこまで耐えることができるのだろうか?
<オールド・ボーイ>で娘を誘拐して育ててきた冷血漢の前で舌を切って泣き叫ぶチェ・ミンシクの父性愛。<クェムル>で娘を救おうと走る間抜けな父ソン・ガンホの父性愛。<あいつの声>で誘拐犯に向かって金を持って走りながら涙交じりのお祈りを繰り返すソル・ギョングの父性愛・・・キム・ミョンミンはまたどんなジャンルの父性愛を創りだしたのだろうか?

“映画の中で妻であるパク・チュミさんは娘が生きていると信じます。しかし私はあきらめます。娘をあきらめて自分の人生もあきらめてしまいます。現実と妥協してすごく世俗的な人間になってしまいます。ですが8年が過ぎたある日・・・”どこかで誰かの電話のベルがなって“娘が生きているということを知った後、私の疾走が始まります。愛した人々に対する思いが水面に浮かび上がってきて。誘拐犯と死闘を繰り広げるんです。”

いずれにせよキム・ミョンミンは違うと言っても、私は監督たちが彼に毎回重たい荷物を持たせるのだという思いを消すことができない。もしかしてキム・ミョンミンを<600万ドルの男>
*アメリカTVドラマ*主人公はサイボーグ!*ぐらいに仮定して、彼に少しずつ過酷な環境を作り出すのではないか?
“そうでうね。シナリオ10個のうち7つがスリラーです。すればするほどさらに新しい創造が必要でしょう。その中でも賢明な誰かはまた私を<シャーロック・ホームズ>と<冒険野郎マクガイバー>を混ぜ合わせたコミカルなキャラクターとして書くんでしょうね。”
*↑次回作のお話ですね☆*



*黄字はSAMTAさん注釈*
翻訳:SAMTAさん 〜Special Thanks〜

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