2009年香港ペニンシュラホテルでの撮影インタビュー。

KIM MYUNG-MIN    ++SURE 10月号++





小さい水滴が数えきれないほど自分の身を投げだして、固い岩に自分の力を刻みつけていくように、
俳優キム・ミョンミンは毎回彼のすべてを投げ出し、彼が持った力はある日から作品に深く刻み
込まれるようになった。もしかしたら我々はキム・ミョンミンという俳優の話から“希望”を見ている
のかもしれない。
我々が持った情熱で固い現実の壁を超えることができるという希望のことだ。
だから彼を、このように大事にして応援するのかもしれない。

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すべての日程を終えて仁川空港に到着しお互い挨拶を交わした後、帰る途中
彼から携帯メールが来る。
「皆で記念写真を撮ろうと言ってたと思うんだけどそれができなかったのが気になってます。
ソウルで打ち上げしましょう。集まって皆でまず記念写真を撮りましょう。」
別れてから30分もたっていないのに、彼にまた会いたくなった。






キム・ミョンミンを演じる

眠れない夜が多い。今日が心の残りで、今が大事で。
できなかったことが浮かんでくるので。
38歳の名俳優は身体を起こし、時間を引きとめてみる。
外科医師のようで、マエストロのようで、死んでいく誰かのようだった
彼の身体を起こしてキム・ミョンミンを演じる。


Editor キム・ガンスク
2009October SURE

彼はどれほど、誰かのようだったか。彼は外科医師チャン・ジュニョクを演じる時、本当に外科医師のようだったし、指揮者カンマエを演じる時、本当に指揮者のようだった。彼はこのように“本当にそのような”のために該当分野の専門性をマスターして撮影に没頭するメソッド演技で知られている。そのような彼が今回は“本当に死んでいくような”姿になった。映画「私の愛、私のそばに」でルーゲリック病に罹っている男性ジョンウを演じるためにやせ細った骨がむき出した姿で大衆の前に立った。大衆が彼に送る関心はただ彼の甚だしい体重減量だけではない。それが持つ象徴性のためだ。彼が今回も自分のすべてを掛けたということを、それが演技の方法論それ以上の意味があるということを感じたためだ。我々は彼が俳優として遅くれて脚光を浴びるようになったことを知っている。小さい水滴が数えきれないほど自分の身を投げだして、固い岩に自分の力を刻みつけていくように、俳優キム・ミョンミンは毎回彼のすべてを投げ出し、彼が持った力はある日から作品に深く刻み込まれるようになった。もしかしたら我々はキム・ミョンミンという俳優の話から“希望”を見ているのかもしれない。我々が持った情熱で固い現実の壁を超えることができるという希望のことだ。だから彼を、このように大事にして応援するのかもしれない。俳優キム・ミョンミンは次の作品でもその次の作品でも自分のすべてを投げ出すことだろう。あなたは、あなたの何パーセントを投げ出すことができるか。


彼が柔らかい中低音で最初の挨拶を交わした。サングラス越しに見える彼の瞳。
その下に見える深くなったえくぼとむき出した鎖骨。そしてやせ細った足。見た目では精神的にしっかりとしている彼に、何を先に話を切り出せばよいか一向に浮かんでこない。コンディションはどうかと聞こうか。映画の予告編について話そうか。どんな言葉も軽く聞こえるようだ。グラフィック撮影の話を切り出した。
今回香港のグラフィック撮影コンセプトは「キム・ミョンミン」です。
彼は急に真剣に案をみつめながら口を開いた。

「僕、今夜は徹夜で研究しなければならないですね?^^」


フェリーに乗って移動する途中。彼と並んで座っている間映画の話をした。
映画「私の愛、私のそばに」の予告編で見たリアルに倒れるシーンの演技について聞くと、彼は俳優の義務について話をする。二人の会話を割ってマネージャーが静かに近付いて携帯電話を渡す。
彼が電話を受ける。
ため息と沈黙。うめき声と沈黙。そして沈黙。

「ジニョンが死んだそうです。」
*昨年胃ガンで亡くなった女優チャン・ジニョン。ミョンミン氏とは「鳥肌」で共演。
フェリーの規則的なエンジン音。暑い日差し。ゆらゆらする波動に
ゆらゆら揺れる彼の身体。サングラスの下で流れる彼の涙。



撮影の中の背景は実際に彼が泊ったホテルのスィートルーム。テーブルの上にミネラルウォーターが1本。ベッドの枕元に使い込んだTOEFLの参考書が1冊。椅子の上にかかっている5年前の着古したプラダのTシャツ。撮影の間、本意ではなくキム・ミョンミンの淡白な欲望が垣間見えた。撮影が終わった後の夕食の時間。彼はいろいろなメニューを注文し、父親のようにスタッフたちにせっせと料理を勧める。
当の本人は少ない量で満足しながら。食事が終わる頃、続いて彼が言う。
「今日の夕食は僕が払います。明日の夕食も、あさっても」


すべての日程を終えて仁川空港に到着し、お互い挨拶を交わした後、帰る途中、彼から携帯メールが来る。
「皆で記念写真を撮ろうと言ってたと思うんだけどそれができなかったのが気になってます。ソウルで打ち上げしましょう。集まって皆でまず記念写真を撮りましょう。」
別れてから30分にもなっていないのに、彼にまた会いたくなった。



あなたの体重減量が最近話題だ。現在身体の状態はどうか。
身体は少しずつ回復している、広報のためには良かったかもしれないが、映画に対するすべてのフォーカスが私のルーゲリック病の設定と減量の方にだけ合わせられたようで残念だ。映画が変質するかもしれないのではと心配になる。
シナリオを受け取った時だんだん痩せて行くのを知っていたはずなんだが決定は簡単だったのか。
これをやれば死ぬ。そう思った。返事をしようとしたまま2カ月が過ぎても決定できなかった。私は俳優を戦地に出て行く軍人だと表現する。武器を準備しなければならない。さらにリアルな演技をするためにオーケストラの指揮者であれば指揮を習わなければならないし、胸部外科医師だと言えば、手術を習わなければならない。そのように武器を準備してこそ出て行って戦いに勝てる。でも今回の作品は武器が少しずつ痩せて行く私の身体であり、見当がつかなかった。計画できないし、準備できない作品だというのが決定するのを難しくした。
なぜ毎回ミッションがあるキャラクターだけ選んでするのか。
ミッションがないキャラクターはない。万が一私が俳優役を引き受けたら、ミッションはないだろう。でも違うキャラクターはすべて研究しなければならない。ミッションがないキャラクターがいるのではなく、ミッションを遂行しない俳優がいるだけだ。
最近も毎日ボールペンをくわえて練習するのか。
人のコンディションというのはバイオリズムが毎日毎日違う。ある日は発声が強くてもつれる日もあるし、ある時は言葉がうまく出る時もある。でも俳優はこんな日やあんな日がなくいつもうまくやらなければならない。そのためには私には必須、食事をすることと同じだ。発音と発声がもつれてセリフが途切れたら感情も呼吸もすべてが途切れる。
俳優キム・ミョンミンに対する評価が大きく2つあるようだ。一緒に仕事しやすい俳優、またひとつは完璧主義者。
二つともいい意味じゃない?^^
完璧にやりたいんだ。完璧主義者ではなく。そのようなことはある。プロの世界では誰かひとりの小さいミスがすべての事をめちゃくちゃにするかもしれないので最大限ミスなく徹底して準備しようと思う。誰か一人のミスが影響してその日のすべての撮影を台無しにすることもあるから。
38歳。年齢に対する焦りはないか。
焦りはないが、最近私は寝る時間までもがもったいないと思う。
私はこれまでできなかったことがたくさんある。寝ようとして横になってやりたかったこと、しなければならないことが浮かんできたりする。
それでこれからは今日しなければならないこと、1番、2番、3番、こんな風に細かいことまですべて書いておく。朝起きてひとつひとつ実際にやりながら番号を消すように過ごせば一日がぎっしり詰まる。
年をとると、自分が築いてきた城に閉じ込められやすくなるようだ。どのようにすればこれを避けることができるか。
私が自分自身を認めてはいけないと思う。他の人たちが認めるのであり。自分が自分を認めればそれはだんだん崩れていく。高い位置に上がればあがるほど自分が自分を認めないようにしなければならない。辛いことだ。高いところに上がっていくのだが、自分を認めたくないはずがない。それは食欲を抑えること以上に辛いことだ。

2009October SURE


翻訳:SAMTA 2010.11.6


















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